1990年入社
土木部 工事課
1995年入社
土木部 工事課
昭和19年の創業以来、事業の礎として日本土建の成長を支えてきた土木事業。橋梁、港湾、鉄道、道路など公共土木工事の種類はさまざまですが、その中でも難工事に分類されるのがトンネル工事です。
今回、日本土建が施工を手がけた「新土場トンネル」も、そのひとつ。社内でも屈指の経験を誇るトンネル工事のスペシャリストが、プライドをかけて挑んだプロジェクト秘話に迫ります。
中村:今回、整備対象となった一般国道169号土場バイパス工区は、京阪神地区から熊野市や新宮市以南への最短ルートとして流通や観光などの面で非常に重要な役割を果たしている道路です。しかし、実際の道路状況としては非常に道幅の狭いトンネルや急カーブがあり、大型車などの安全通行に支障をきたしていました。
平野:それらの課題を解消し、すべての車両が安全にストレスなく通行できるトンネルへと改良するのが今回のプロジェクト「新土場トンネル工事」です。三重県が発注元で、日本土建を含む3社による共同企業体(JV)として案件を獲得。全長640mのバイパス工事のうち、当社はトンネル本体(405m)の工事を担当しました。
中村:そのプロジェクトにおいて、私は監理技術者として、平野は現場代理人として参加しました。監理技術者とは書いて字のごとく、工事現場の技術的な部分において監理をおこなう仕事です。現場における代表的な立場も担っていて、県の担当者との折衝や打ち合わせ、協力会社の選定、現場での監督業務といった役割を担います。
平野:現場代理人である私は、中村さんをサポートする役割ですね。業務内容は大きく変わりませんが、補佐的な立場から二人三脚で現場の工事を進めていくことになります。
中村:一番大事なのは、現場全体がひとつになって目標に向かっていくことです。実際に現場を担うのは作業員の方々ですし、協力会社を含めて多くの人が関わっています。意思疎通が図れているかどうかは非常に重要であり、私自身もコミュニケーションを通して働きやすい作業環境づくりに努めました。
平野:まずはそこからですよね。社員同士はもちろん、現場の作業員も含めて何でも話せる雰囲気や環境をつくり、何か問題や課題が起きた時にチームワークを発揮して解決していく。それが、より良い構造物の築造につながると私も考えています。もちろん、人によって重視するポイントは違うと思います。ただ、今まで中村さんと多くの現場に入ってきたので工事に対する考え方が似ているのだと思います。
中村:確か、今までに5~6本ほど同じトンネル工事を経験しているのかな?
平野:そうですね。少し離れた現場の時には工事期間中、寝食をともにするなど24時間一緒にいたこともありますね(笑)。
中村:その点、長く一緒にやってきた経験は大きなメリットです。お互いに気心が知れているので、無駄な言葉を交わさなくても意思疎通が図れますから。それに、私からみた平野さんは非常に真面目で忍耐強い印象。今回も同じ現場に入ることがわかった時は心強かったです。
平野:私からすれば頼れる兄貴的な存在ですよ(笑)。同じ現場では私が次席になりますが、中村さんの「こうしよう」という決断力のおかげで迷いなく現場を進めていくことができます。当然、今回のプロジェクトも安心して臨めると思いました。
中村:まず、今まで経験してきたトンネル工事と比べて工期に余裕がありませんでした。ひとつでも施工順序を間違えると工期が遅れるのはもちろん、原価管理にも影響を及ぼすことが容易に想像できるほどです。シビアな言い方をすればミスが許されない状況。その点に関する不安は、最終的に工事が完了するまで拭い去ることはできませんでした。
平野:そもそもトンネル工事自体が難工事というのもありますしね。一概にトンネルといっても長さや形状、土の質などすべて違うものです。そんな状況の中、山の中に穴を掘って貫通させるわけですから、実際に掘削して初めて直面する課題や問題も少なくありません。その中で工期通りに、というのは相当なプレッシャーだと思います。
中村:実際に、今回の工事も一般的なトンネル工事と比べて特殊といえる点がありましたね。
平野:はい。普通、トンネルは出口に対してまっすぐに貫通することが多いのですが、新土場トンネルは斜めに抜けていく必要がありました。
中村:加えて、施工エリアの狭さも工事の難易度をさらに高める原因になったと思います。
平野:その通りですね。新土場トンネルの坑口は起点側が一般国道に接していて、さらに終点側には橋が架かっていました。そのため施工エリアがとても狭く、工事を進めようにも仮設物を置く場所がないんです。私自身、今までにどちらか一箇所の施工エリアが狭いという経験はあるのですが、両方のパターンは初めてでした。
中村:短工期に加えて、物理的にスペースを確保することができない両坑口付近での施工をミスなく進められるかどうか。この点が、今回のトンネル工事における成否のカギを握るポイントでした。
平野:その課題をクリアするため、何度も各方面との協議・調整を重ねました。その結果、橋が架かっている終点側を仮設ヤードの一部として利用したり、休憩所の平地部分を有効活用したりすることで何とかスペースを確保。無事に工事を進めることができました。
中村:今振り返っても大変だったと思います。そのぶん、予定通りに工事が完了してトンネルが開通した時はとにかく嬉しかったですね。工事完了時には発注者から最高の評価もいただけましたし、地域の方々からも待望のバイパス道路が早期にできたと喜んでもらえました。
平野:そうですね。今回のトンネル工事を通じて道幅の狭さや急カーブなどを解消した結果、大型車をはじめすべての自動車の安全通行を確保できたことが、何よりの証拠だと思います。それ以外にも物流促進への期待や地域の活性化、緊急輸送道路としての防災機能の強化など、さまざまな効果をもたらしました。
平野:トンネル工事は毎回進め方が異なります。そのため、今まで経験した工事もすべて含めて、実際に貫通するまではとにかく不安でいっぱいです。これから先、何本トンネル工事を経験してもきっとその感覚は変わらないはず。だからこそ、予定通りに貫通した時の達成感や安堵感も大きいのだと思いますし、日々の積み重ねが非常に大切だと改めて実感しました。
中村:全体的なことでいえば、地域の方と密にコミュニケーションをとりながら、円滑に工事を進捗できたことに満足しています。感謝の言葉を耳にする機会も多く、公共事業を担う立場としての責任を果たすことができたのかなと思います。個人的には今回で12本目のトンネル工事になります。この先もトンネル工事のスペシャリストとして15本、さらには20本と経験を重ねていきたいですね。
平野:私は、まだ工事所長としてトンネル工事に関わったことがありません。今までとは違う景色や立場から関わることで、また違うやりがいの発見や自己成長にもつながるのではないかと思っています。
中村:今後も変わらず、常に自然体でいることです。今回のプロジェクトを含め、工事所長という立場の場合、知らず知らずのうちにプレッシャーを感じることも少なくありません。私自身、初めて所長を任された時がそうでした。肩に力が入ってしまい、周囲を冷静に見ることや判断することができませんでした。工事現場では、それがミスとなって全体に大きな影響を与えてしまう可能性があります。自然体で工事に臨み、仲間と同じ目線で現場を見つめること。その姿勢を大切に、今後もひとつの現場と向き合っていけたらと思っています。
平野:先ほども話しましたが、トンネル工事は毎回進め方が異なります。そのため、工事が無事に終了しても何かしらの反省点や改善点が毎回出てくるものです。「あの時、こうしていれば」という思いを次の現場で活かすのですが、それでも新たな課題が見つかるんです。ただ、その奥深さがこの仕事の醍醐味だと思っています。反省点が見つかる限り、まだまだ成長できると思うと楽しみですね。
中村:新土場トンネル工事を無事に終えた後、私と平野はともに工事長へと昇進しました。立場上、今までの経験を会社に還元するとともに後進を育てていく役目も担っています。この仕事は厳しい一面もありますが、それ以上にやりがいを感じることができます。その魅力を伝えていくため、できるだけ楽しく仕事に取り組めるような雰囲気づくりにも力を入れていきたいと考えています。
平野:私が大切にしたいのは、工事と同様にコミュニケーションですね。新入社員の方も中途で新しく仲間になる方も含めて、すべての悩み・課題を共有し、自分が経験してきたように同じ目線に立って一緒に問題を解決していきたいと思います。